山と人の関係を、もう一度“人のサイズ”に戻したい。
背負い木(しょいぎ)は、そんな思いから始まりました。
大学時代、山主の方々と山に入りながら、
受け継いだ山を守ろうとする誇りと、
それでも生計としては成り立たない現実を何度も目にしました。
技術も歴史も魅力もあるのに、経済としては消えていく。
そこに、どうしようもない矛盾と、埋もれた可能性を感じていました。
社会人になってもその思いは消えず、
“歩いて通える山”を2〜3年探し続け、
山の麓に引っ越した末ようやく家から30分ほどの場所に手が届く山に出会いました。
実際に登ってみると、徒歩20分・標高差200メートルという厳しい条件。
しかし同時に、こう確信しました。
「この条件で成り立つ方法があれば、日本中どんな山にも応用できる。」
そこから、木をどう下ろすかの試行錯誤が始まりました。
ロープ、台車、さまざまな方法を試したものの、安全とは言えませんでした。
ある時、ふと気づいたのです。
「持ち上がる重さなら、いっそ背負ったほうが安全で合理的ではないか」
背負子を使って下ろしてみると、驚くほど確実で安全でした。
その瞬間、探し続けていた“最小の合理性”が形になった気がしました。
背負い木は、ロマンではありません。
重機を使わず、人の身体の範囲で完結する“小さな林業”。
山に利益を残し、人が自らの手で経済をつくり直すための思想です。
森と都市、身体と経済、手仕事とテクノロジーの間に、
あたらしい均衡を描き出すこと。
それが、背負い木の使命です。
私は週末に合間を見つけては木を背負って山を下ります。
それは、産業の原点をもう一度、人の身体に取り戻すための、
静かで確かな実験です。
佐々木 瞭太